思い出話(父親)
登場人物 主人公 父 ・僕
父親は今でこそ、そこら辺にいる普通のおじいちゃんだが昔はものすごい亭主関白で怖かった。
父親のいう事は絶対。
40歳になった今でもたまに電話で話をすると、昔の名残りで敬語になってしまう事もある。
僕が学生の頃、母親のいう事を聞かずに反抗していても「お父さんに言うよ」の一言で「ごめんなさい」 卑怯だ!
リビングでワイワイしていても父が帰ってくるとピリッとする。
二階の自分の部屋にいる時、リビングから大きい声で僕を呼ぶので何事かと急いでいくと、ちょっと手を伸ばせば届く距離にあるテレビのリモコンを取ってくれ、と言われ渡す事もあった。そんな時でも文句言えない。そんな存在だった。
僕が中学生の時、父が仕事で手の指を怪我して帰ってきたことがあった。
人差し指の第二関節部分が大きく腫れていた。
病院に行けばいいのに、父はその痛みを和らげるために酒をたらふく飲んだ。
泥酔し、リビングの隣の和室にこもり暗い部屋で何やらブツブツ言っていた。
しばらくして、僕を呼ぶので父の元へ、
大きく腫れた指を見せて僕に言う
「見てみぃ この指、骨がズレてるんや」
「今からズレてる骨入れるから、お前思いっきり引っ張れ。
ええか、ワシがやめろって言うまで引っ張れよ」
父上、お言葉ですが多分折れてまっせ!
そんな事を言える状態ではなかった。
大きく息を吸い、引っ張れと言うので思いっきり引っ張った。
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父は何も言わない。だから引っ張る。
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顔をうずめて何も言わない。だから引っ張る。
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「ぅぐーーー、ぁ~~~~~~~」
手を緩め様子を見ると
泣いていた。あまりの痛さに泣いていた。
心の中で爆笑してしまった。
また痛みを和らげる為、酒を飲む。
父はそのまま寝てしまった。
折れていなかったのか、しばらくシップを貼っていたら治った。
今では父も円くなり、最近はよく一緒に出掛ける。
この前、この話をしたら全く覚えていなかった。
ベロンベロンやったからね
めでたし。